2015.06.13 Saturday
NTライト著 上沼昌雄訳 『クリスチャンであるとは』 その4
今日も、N.T.ライト関連の新刊『クリスチャンであるとは』ということを紹介したい。今日からは2章から紹介したい。
霊性の混乱
第2章は水源を守る「独裁者」のたとえ話というか物語の話から始まる。この物語は面白いので、ぜひ本書を読んでご自身でお考えいただきたい。
書店に行って「霊性(スピリチュアリティ)」と分類されている棚を見れば、同じような結果(引用者註 現代人が知的に洗練されたとしても宗教的なものへの関心は変わらないという結果)に至るだろう。書店側もどう分類したらよいかわかっていないのは、まさにこの時代の状況を物語っている。(『クリスチャンであること』p.37)
アメリカの古本屋のSpiritualityコーナー
上記の写真は、アメリカの古書店の霊性関連のコーナーの写真である。あるいはアマゾンなりどこかのネット書店で霊性を検索してご覧になるとよい。まぁ、キリスト教から、仏教、新興宗教から、神道、またムーもどきのオカルトまで何でもございである。結局、雰囲気が宗教的なものは、何でも霊性の中にぶちこんでいる感じはアメリカでも日本でも変わらない。
ある意味で、現代の日本の社会でも、このスピリチュアリティという語が粗製濫造のように使われ、そして記号として消費されている。
一時期話題になりましたなぁ。
この方も霊能者としてご活躍という側面も
この深見東洲というお方の車内広告がはってあるのが阪神電車クオリティ
深見東洲の阪神電車内のポスター
最初に阪神電車でこの広告見て、何者?ってビビった。
しかし、江原啓之さんにしても、三輪明宏さんにしても、深見東洲さんにしても、みんな音楽、それも結構声量を要請する系の音楽関係者というのが面白い。まぁ、感性と霊性はどっかでつながっているので、この辺りをどう考えるのか、ってのは結構真面目に考えておかないといけないのかもしれない。これは完全に余談である。
英国でのケルトの流行
日本でもそうであるが、1990年代から2010年頃を中心にケルトが話題になった。ケルトといっても、なんちゃってケルト的なものであるが。その火付け役は、なんといってもエンヤというアイルランド生まれの歌手であり、そのアルバムである。
エンヤの音楽 もろケルト風
かなりデトックスされたケルト風 Celtic Women
まぁ、その後、セルティクスの活躍(中村俊輔というサッカー選手が在籍したらしい)などもあり、大概の日本人はスコットランド高地地方とアイルランドの深い関係を知ることもなく、なんちゃってケルトを楽しんでいるし、その極みは、ケルト的な(というよりドルイド的な精神世界の反映である)ハローウィンである。
セルティクス時代の中村俊輔
2014年表参道ハロウィンパレード
また、コンピュータゲームの古のゲームウィザードリィなどである。1980年代初頭にこのゲームがしたいがためにマックを買いに走った友人が一人いる。まさにヲタクであった。大体マッキントシュという語自体、とてもケルト的である。
まぁ、余談に行き過ぎたが、N.T.ライト先輩の本から
とくに、私の住んでいるイギリスについて言えば、つい一時代前はケルトに関することが突然注目をを浴びるようになった。「ケルティック」という言葉がつけばそれだけで人々の興味を引いた。音楽にしても、祈祷書にしても、建築物であろうと宝石であろうとTシャツであろうと手当たり次第に西洋文化圏の人々の注目を引き、売れた。それは絶えず心に浮かぶもう一つの世界の可能性を物語っているように思う。(同書 p.38)実は、ケルトの血脈というのはアメリカに結構流れているのだ。まぁ、貧しいアイルランド系の農民たちが、ジャガイモ飢饉の結果、19世紀に新天地としてアメリカに大挙して移民を行い警察官や消防署員、そして軍人として、アメリカ社会に流れ込んでいったのだ。いまだにニューヨーク市警察本部には、なぜかアイルランドの国旗が掲げられる習慣がある。それだけ多いのだろう。まぁ、いずれの三職とも、体力勝負の仕事ではある。
アメリカ国旗、アイルランド国旗、NYPD旗(緑はIrish Green)
映画「デビル」の予告編
IRAのテロリスト(ブラピ)と同居する羽目になる警官(ハリソン・フォード)に示される実に複雑なアイルランドとアメリカのつながりが思い起こされる面白い設定の映画
ボストンの有名バスケチーム Boston Celtics
なぜ、ケルトにひかれるのか
ケルトに英国人がひかれるのは、現代社会の底の浅さ、浅薄さではないか、というのがライトの主張である。この辺、もともと、ライト先輩がスコットランドのセントアンドリュースで教えていることもあるかも、と思っている。いずれにせよ、結局西洋文明が、理性重視社会に偏重してしまった結果、結果的に底の浅い、懐の深さを失った残念な結果になっているかもしれないことに関して以下のようにお書きである。
神(どのような神であっても)がもっとリアルに存在する世界、人間と自然環境が最もうまく共存する世界、はるかに深い根源に根ざしている世界、そしてそこで奏であれるさらに豊かな音楽。そこには、現代のテクノロジー、昼ドラ番組、サッカーの監督等、けたたましくそこの浅い世界より、はるかに豊かな世界がある。古代ケルトの世界(中略)は、今日のキリスト教からは百万マイルも離れているように思われる。それこそが教会等西洋の公認宗教に飽き飽きし、怒りさえ抱いている人にとって間違いなく魅力的なのだ。
しかし、ケルト・キリスト教の真の中心は、極度の肉体的苦行と熱心な伝道活動をともなった修道生活であり、今日の人が願うものではない。(中略)今日の陽気で熱狂的なケルト愛好者は、そうした肉体的苦行を取り入れる様子はない。(同書 pp.38-39)
ケルズの書(ヨハネ福音書)Wikipediaより
ケルト十字架
アイルランドの聖人 St Patirick
アイルランドの祭り St Patric Day
真ん中の人物は、レプリコーンという虹のたもとに宝を埋めたとされるアイルランドの妖精のコスプレ
Guinness Beerカップが典型的なアイルランドのステレオタイプ
今のアイルランド、あるいはケルトは、基本こういったノリの軽さとポップさを含んだものでしかなく、古のアイルランド人、スコットランド人が地を這うように生活し、海藻を岩地にまき、土壌を作り、痩せこけた土地で何とか生き抜こうとしたその情熱と必死さも知らず、お気軽なケルト祭りをしているように思えてならない。
日本とケルト
日本でも何かと話題となるゴルフは英国風の紳士のスポーツに今はなってしまっているが、そもそもは、スコットランドの遊びであり、非常に古い伝統を持つものなのだ。
ゴルフの歴史の映像
20秒あたりからライト先輩のいるSt Andrews 大学の映像がある
また、アイルランドにしてもスコットランドにしても、土地の生産性が限られるために(だから牧草地になっている)その土地で生活可能な人口が限られるの で、割と早くから海外展開に出ており、海外進出している人々が多い。例えば、トーマス・グラバーは上海のジャーディン・マセソン商会(現在はマンダリンオ リエンタルホテルグループなどで知られる)の日本の相代理人を長崎にて務め、長州と薩摩に当時の最新鋭兵器から一歩落ちた南北戦争で売れ残った銃を大量に売りつけた人物であるが、ジャーディンやマセソン同様、スコットランド人である。結構、幕末のころの一発屋的な外国人商人(冒険商人)にスコットランド人は案外多い。
Thomas Blake Glover(グラバー 右)
左の日本人は岩崎弥太郎
また、スコットランド人の伝道者はかなり多い。第2次世界大戦末期、中国東北部にあった日本軍の捕虜収容所で脳腫瘍のため1945年2月に収容所で病没した元パリオリンピック金メダリスト、エリック・リデルズはスコットランド人の宣教師である。
念のため、この人物は炎のランナーで登場する人物である。
Eric Eric Henry Liddell
映画 炎のランナー 予告編 米国版
ことほど左様に、古ケルトの社会は理想郷ではない。非常に陰惨で飢えと苦しみとイングランドによる暴虐に満ちた地であった。しかし、それでもなお、いや、それ故に、大陸やイングランドで失われた神のコミュニティとその伝承が偏狭であるがゆえに比較的きれいに残った地でもあり、神のことばの情熱の声が響いていた地なのかもしれない、とは思う。
最近、息子と英米文学の話をするのだが、特に米国文学の理解にあたっては、スコットランド、アイルランドの文化とその特徴の話を抜きに、語ることはできない、ということを感じる。しかし、案外このあたりのことを講義では触れてもらっていないようなのが、実に残念ではあるが、米国や英国にいる訳でないのでしょうがないとは思うけれども。
また、なぜかケルト系住民(主にスコットランドやアイルランド系住民)が多いシカゴでは、シカゴ川を緑色に染めることをせんとパトリックの日にしてここ数年遊んでいる模様である。もはや病気である。なお、この緑色の染料は、環境負荷がない染料らしいが、サカナが住んでいるとして、びっくりするかもではある。
シカゴは3月のSt Patrick Dayに川を緑に染めて遊ぶ模様w
あぁ、あまり関係のない話題で今回は盛り上がってしまった。次回はまともに紹介します。
評価:
原 聖 講談社 --- (2007-07-18) コメント:非常に幅広い世界であったことを示す名著だと思うけど継続的に出版されてない模様。 |
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