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2014.07.21 Monday

日ユ同祖論というトンデモ理論について その1

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     なんか、最近、日本人とユダヤ人が同じだとか、君が代がヘブライ語で読むとわかるとか、弘法大師は東方キリスト教の行きついた景教から影響を受けて「いろは歌」を造ったとか、香ばしい話題をお知らせしてくださる方が増えてきたので、この背景について、最近最下部リンクの井上章一先生の本と内田樹先生の本で学んだので、ちょっと書いておこうかと。

    日ユ同祖論について
     まず、日ユ同祖論について述べておこうか、とおもう。これは、日本人がユダヤ人と同じ祖先をもつ、とか、日本人がユダヤの失われた11部族のその支族の一つではないか、という理解である。

     例えば、神社の赤い鳥居は、出エジプトの鴨居に血を塗ったものを形としてあらわしたものだとか、天狗の風俗はユダヤ人司祭の姿であるとか、諏訪大社の主祭神が守屋山なので、モリヤ山とおんなじだとか、まぁ、調べれば出るわ出るわ、ちょっとしたゴロ合わせとか、ちょっとした類似からひょっとして日本人とユダヤ人は同じではないか、ということを言う人々がおられる。

    歴史ロマンとして楽しんでる分には…

     歴史ロマンとして、勝手に妄想をしておられる分には構わない。そのロマンは個人で楽しんだり、何人かの人々で、「自分たちだけが知っている」とか言って陰謀大好き、陰謀ですべてを理解しようとして楽しんだりしている分には構わない、とは思う。言論は自由だし。どんなトンデモ理論でも、「どうぞ、お好きにご発言なさってもよろしいのではないでしょうか(まぁ、このブログもトンデモ理論いっぱいなので、ひとのことは言えた義理ではない)」、と申し上げたく存じますが、それが確実なもの、歴史的事実とご主張になさったり、聖書に比肩するものとして、キリスト教徒の中で、いわんやキリスト教会でまことしやかに語られるこの状況は何とかならんかなぁ、と思う。

    いつ頃生まれたか

     内田先生の私家版・ユダヤ文化論では、明治維新の直後のアメリカ人宣教師MacLeodとしておられるが、井上先生の本では、もっと以前だとご主張である。その根拠として、

     たとえば、16世紀末から日本に滞在していたペドロ・モレホンの指摘を、見てみよう。モレホンは、『日本中国見聞録』(1621年)という記録を書いている。その中で、日ユ同祖論に言及し、否定的なコメントをよせていた。(p.184)

    と結構古い。この説が日本発ではどうもなさそうであり、海外由来でありそうである。その背景について、

     日本人はユダヤ系であるとする通念が、彼の同時代に存在したからであろう。ありもない議論に、くってかかってもしょうがない。日ユ同祖論は間違いだと、否定して見せる意義がある。この議論はそれだけ広く浸透している一般的な見解として、意識されていた。(p.185)

    バベルの塔由来か?
     このような『奇説』が出てくる背景として、バベルの塔の言語混乱とその後世界各地に広がっていた記述がどうも基礎にありそうであることを同書では指摘されている。そして、引用はもうしないので、ぜひ同書をお買い上げいただきその最後の章をお読みいただきたいのだが、17世紀末に長崎にいたオランダ人ケルペルにおいても日本人はバビロン由来であるという説が維持されていたことをケルペルの『日本誌』を引用しながら記載しておられる。

    奇説の背景としての東方見聞録
     このような奇説がヨーロッパで出てきた背景には、おそらくマルコ・ポーロが戦争に負けて投獄されているときに、暇つぶしに彼の『東方見聞録』の話をしたものを口述記録したものが出版されて、当時のヨーロッパにとって、未知の領域であるアジアについての一大アジアブームを生み出し、コロンボ(コロンブス)が西回りでもインドに行けんじゃね、とスペインから出航したりと、まぁ、いろんな影響が出ている。余談になるが、マルコ・ポーロが戦死してたら、ひょっとしたら、アフリカ人奴隷貿易がおこなわれることもなく、アフリカ系アメリカ人が生まれることもなく、と世界史は大きく変わってたかもしれないと思うと、まぁ不思議な感じもする。
     日本が存在としてヨーロッパ人に認識されるのは、マルコ・ポーロの東方見聞録がおそらくはじめてだろうと思われる。

    大航海時代の夢とロマン

     インターネットもなく、CNNもなく、新聞もなく、海外通信社もなく、という時代では、噂、伝聞情報だけが独り歩きする。それはそれで真実と嘘(ノイズ)や歪曲(ツィスト)が混じるのであるが、ノイズやツイストだらけだろうが、真実も一部含まれるからややこしい。
     どうも日本人や中国人という人々がいるらしい、とヨーロッパ人が認識したのが『東方見聞録』であり、そのことを認識したヨーロッパ人とすれば、当時の世界観を形作った聖書の中で、どこが関連付けられるかということを考えたくなるのは人情であろう。するとと、バベルの塔の話か、バビロンに捕囚された挙句、わからなくなったユダヤ人ではないか、という歴史ロマンが出ても不思議ではない。バベルの塔だと、その物語と一致しているので、あまりに説としては面白くないだろう。そして、混乱がその主要ポイントなので、痕跡とは言え、一致性を言うのは困難になる。また、バベルの塔を根拠にすると古すぎるということもあるし、旧約聖書の出エジプト記以降の記述を拾えないので、ヘブライ語聖書に詳しくない日本人に引っ掛かるためには、いったん捕囚されてわけわからなくなった捕囚の民の末裔であるとすることが選択肢としては魅力があることになる。

    この奇説の困った論理構造
     この奇説は、類似性のあるものをたくさん集めてきて、これだけ類似性があるのだから、双方は同じ根源をもつ、とするのは当然ではないか、という論理構造に立ち、一見科学的な方法論を持つかに見える点である。

     この論理を用いると、コンビニに売っているおにぎりと文具店に売っている三角定規は、同じ祖先をもつことになるのではないか。おにぎりも、三角定規も、△のかたちをしているし、真中が空いているし、厚みの違いもあるものの一定の厚みがあるし・・・ほら、三角定規とコンビニに売っている三角のおにぎりは同じ祖先をもつんじゃないですか、ってことを言えちゃうじゃないですか。誰もそうは言わないけど。

    次回は上智大学の公開講座の受講記録に戻すので、来週土曜日辺りにこの奇説が日本のキリスト者に受けるわけ、について書いてみたいと思う。 



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    コメント:日本文化論の専門の学者による学問の香りのする入門書。日本人がどうキリスト教を見て、どうかかわってきたのかを著した名著。

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    ショップ: 楽天ブックス
    コメント:内田先生のヨーロッパでのユダヤ人社会とその特殊性を説明した入門書。

    コメント
    >景教から影響を受け

     歴史認識の問題ですが、中国、日本及び中国の周辺諸国に、景教が影響を与えたのは間違いないでしょう。ただし具体的に現在存在する具体的な物品(例えばカステラとか天麩羅)を指摘したり、文化的な事例の源流を明示するのは如何せん千三百年の時間と、若干は景教が倭に伝わっていたとしても殆どが間接的であり、且つ時代の変遷に晒されていることを考慮すればあまり意味があると思えませんが・・・
     しかし考え方のヒント(思考の基盤)になったことを具体的な証拠が見いだせないことを持ってあながち否定も出来ません。(ユダヤ人なにがしは別なお話として)

     そもそも『東方キリスト教の行きついた』と表記することは、景教そのものに対する正確な認識があまりない現状では、単にパウロの教会(ローマ教会)の言い分のみが正当として過ちがないとの一方的な断言といえるのではと思いますが・・・
     非カルケドン系の教会を中世カトの視線で覧るのは一寸ではないかなと・・・イエ、決してエキュメニカルを推奨するのではなく、信仰の立場と学術的(科学的とも)立場は異なる視点があってしかるべきなのでわって事なので・・・・


     それより歴史ロマンと申せば、東北にあるキリストの墓・・・資料価値など考えればおそらく後世のでっち上げと考えるべきでしょうが、イエズス会やフランシスコ会以前にセム・ハムなのか、もっと東の地域の人かは想像するとして、信仰心と使命感でこの極東の辺境に布教の為渡ってきた宣教師がいたかもって事は考え得るお話しでは・・・少なくとも千三百年前に海の向こうまでは来ていたのですから、海を超えようとした人がいてもおかしくはないのでは・・・
    • ひかる
    • 2014.07.21 Monday 15:50
    そうですね。

    影響が全くないとも申せませんが、相互確認できる史料や証拠資料なしにそれがあたかも学問的真実かのように言ってこられる方が身近に多くって。

    ご指摘の通り、1000年という期間に入ったノイズ多すぎて、逆変換できませんし、その逆変換できないことを推測で補完するには、補完というよりは創作に近い世界になりますので。こうなると2次創作から逆が変換できてそれにたどり着けるのか問題にもなりますが、まぁ、現在のマンガ本の2次創作から原作を復元するのが極めて困難なように、かなり厳しいでしょうね。

    中国に到達したキリスト教は、その実態や何であるかはご指摘の通り、その実態は何だったかはよく分からないのは、その通りでございますが、記録マニアのローマカトリック教会に記録がないこと、通説に従って、東方キリスト教会であろうという推定のもと、一応通説に従って東方キリスト教会といたしました。

    まぁ、キリスト教がどこまで東方に伝わったのか、ということは、おそらく、その情熱で探しまくったと思いますし、その一端は井上先生の御本でご指摘でしたので、ここでは特に言及せず、といたしました。

    あまりに非論理的なことをあたかも学問か真理かのごとく称揚される方々(中には講壇で話される方も)があまりに身近に多いので、それはまずいのではございますまいか、とお諫め申上げる目的が本シリーズでございますので、御理解賜り度。

    いつもの如く、切れ味の鋭いコメント、補足するコメント、平に御礼。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2014.07.21 Monday 18:08
    東北にあるキリストの墓は、当時のキリシタンが処刑された墓で、周りはそれを「キリスト」と言ったのはないかと考えたほうが信憑性が高いものと思います。
    • tamae
    • 2014.07.22 Tuesday 16:20
    tamae様

    コメントありがとうございました。津軽や北上には隠れキリシタンの伝承があるので、その可能性は皆無ではないかも、ですね。ただ、文献史的に裏付けられないと、学問としては厳しいですね。

    井上先生の本で、第1章にはそのことも触れてございます。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2014.07.22 Tuesday 17:16


    http://kurodakango.web.fc2.com/01.html

    この中で考古学を踏まえながら考証されている内容はなかなか面白いですよ。

    7、今日の日ユ同祖論の問題点
     日ユ同祖論は学説ではなく、一般的にはうさんくさいトンデモ論の一つとして数えられる事が多い。「剣山にソロモンの秘法が隠されている」とか「東北にキ リストの墓がある」とか「秦氏は景教徒であり、八幡神(やわたかみ)はユダヤ・キリスト教の神ヤ−ウェである」などの根拠に乏しく、面白半分に『月刊ム−』誌をに ぎわす諸説が「日ユ同祖論者」の著作に載っている事も多く、その信憑性(しんぴょうせい)を傷つけている。

    秦氏=景教徒説は謬説(びゅうせつ)である
    「秦氏は景教徒である」は佐伯好郎(1871〜1965)が唱えたが、すでに学会において、その時代考証の不適切さが指摘されている。景教は431年 エフェソス公会議で「異端」とされ、東方に追いやられ、635年唐に入った。しかし秦氏は4〜5世紀には日本に入っていた事が分かっており、時代が合わない。
    さらに秦氏が全国にヤーウェの神殿(八幡社)を造るほど熱心な景教の信奉者であるなら、周りの人々に伝道したはずだし、一族1万人以上いた秦氏は少なくとも 1000冊くらいの聖書を持っていたはずである。もし聖書写本が数冊しかなくとも、ヤ−ウェの神殿を全国に造るほどの信心なら、子弟にその神について教えたであ ろうし、それが文書化しているはずである。さらに全国の八幡神社に、その神の由来を示す碑文を立てたであろう。しかし今日まで古代日本に聖書があった証拠は ないし、碑文も無いし、後世の秦氏の子孫に聖書やその信仰が伝わった様子もないのである。
    つまり、最初から謬説であって信用できる説では無いのである。
    • チキンハート
    • 2014.12.05 Friday 23:24
    チキンハート様

    コメントをお返しするのがすっかり遅くなりました。

    大変貴重なリンク、ありがとうございました。大変関心をもって拝見させていただきました。まぁ、当方の主張とほぼ同等だったわけですが、それを真剣に振り回し、あたかも検証された事実化の如く方々もおられるわけで。

    まぁ、こじつけというのか、三角定規と三角おにぎりの類似性というのか、一応、科学としての合意されている共通理解をがん無視される方が多いのが困りものです。

    ただ、考古学というのは、シュリーマンの例にもれず、決定的証拠が出るとガラッと変わるということも、覚えておかないとまずいですね。

    ご教示ありがとうございました。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2014.12.13 Saturday 17:27
    結局、このリンク主は、誤謬の多い説を排除しながらも、
    「日本民族の先祖は北イスラエル(エフライム)だろう」
    としています。

    とくに、現在では意味のわからない古代大和言語が、ユダヤ語で意味がわかるなら、それはなかなか興味深い話です。

    古代大和言語の「県主(あがたぬし)」が、ユダヤ語でやはり「主長」という同じ意味を持っているとしたら、明らかに同一言語でしょう。

    私は、久保の説はコジツケが多くて聞いてて腹立たしいのですが、「日本民族=北イスラエル(エフライム)の子孫」説自体は否定できないと思いますね。

    ほかの証拠もあることだし。


    • チキンハート
    • 2014.12.21 Sunday 15:42
    チキンハート様

    コメントありがとうございました。

    上代語とヘブライ語の同一性の議論は、ロマンとしては面白いのですが、上代語の発音の厳密な発音が消えていること(周辺に残された言語からの再現という説もあるでしょうが、一般に逆変換が非常に困難であること。古文の逆変換は非常に難しい。あるいは翻訳文からの翻訳者以外の元言語による原文への逆変換、あるいは再現が非常に困難であるかと思います)にっ加えて、方法論、対象、全体での整合性の蓋然性の検証を含め、検証しようとすると、かなり厳密な考証を要求されるように思います。

    まずもって、整合性の献呈論に関して、数理統計的検定の方法論からの、ノンパラメトリック統計等の中でどのような手法を用いるのか、閾値(所謂p値をどこに設定するか)というレベルからの検証が必要かと存じますが、そこまでしても得られることがあまりないように思います。

    ロマン派ロマンとして、楽しまれるのがよろしいのではないか、と思います。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2014.12.21 Sunday 22:28

    上記サイト主は、決定的な証拠として日本神話と古代中東で信じられていた神々の神話との類似をあげています。

    聖書によれは、北イスラエルはバアル崇拝の罪を犯して、滅ぼされた。

    もしその子孫がいたなら、「バアル崇拝」の痕跡があるはずである。

    そこで調べるとバアル神話と日本のオホクニヌシ神話は、瓜二つなのだという。

    ●どちらもプレイボーイで女神にモテモテ
    ●どちらも、嫉妬に狂った兄弟神に<猪>を使って殺される
    ●どちらも黄泉の国で、女神のハートをつかむ
    ●どちらも、死んでは生き返る。

    ゆえに「オホクニヌシ=バアル」だと述べている。

    こうしたことが偶然起こるとは思えない。とくに「猪」を使って殺されるのは、傲然の一致というにはできすぎである。

    もしこれが本当ならかなり決定的な証拠でしょうね。

    そうすると「日本民族=北イスラエルの子孫」説も無視できない意見だと私は思いますよ。

    21世紀になっても、神社に行って蛇を「神」だと言って拝んでいる民族。そんな民族はなかなか見当たらない。あきらかになにかがある民族だと思います。


    • チキンハート
    • 2014.12.29 Monday 23:57
    チキンハート様

    コメントありがとうございました。

    バアル信仰の影響があるとすれば、もう少し詳細な検証が必要かもしれません。

    バアル信仰の中に含まれる降雨問題等と日本の記紀伝承における降雨問題との相似性ということに関する検証や、流血儀式と日本における不浄としての流血をどう考えるのか問題辺りを含めて整理することが必要かもしれません。

    類似性だけでは厳しくて、儀式性、象徴性の観点からのより詳細な検証が必要かと思います。

    また、日本の蛇信仰は、水龍との関係での蛇信仰と心得ますが、そのあたりはいかがでしょうか。

    いずれにせよ、コメントありがとうございました。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2014.12.30 Tuesday 09:06
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    • 2014.12.31 Wednesday 01:26
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    • 2014.12.31 Wednesday 01:37
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