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2018.05.22 Tuesday

ヘンリー王子とメーガンたんの結婚式での説教を見ながら考えた

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    タイミングがあるんで、緊急公開することにしました。

     

    今回は、ややこしい話(小難しいキリストの信なのか、とか言った話題とは無縁)があまりないものですけど、緊急公開しました。

     

    ロイヤル・ウェディングの説教から考えてみた

    さて、先週末に開催された、Duke and Duchess of Cambridge Sussex と呼ばれることになった、日本風の呼び方をすると、ヘンリー王子とメーガンたんの結婚式が、ちょっと前まで、Facebookとかツィッターでいろいろ飛び交っていたが、まぁ、それはそれで、お昼の主婦向けのワイドショーで適当なことをいう方々は、勝手に騒いでおいていただいて、説教に当たったアフリカン・アメリカンのアメリカのアンクリカンコミュニオンの主教様のマイケル・カリー( Bishop Michael Curry)主教が行った説教と、その意味を少し考えてみたい、と思いました。


     

    マイケル・カリー主教の説教 BBC提供

     

    説教とその周辺構造を考えた

    とはいえ、説教塾風の説教分析がしたいわけではありません。。それよりは、この説教をとりまくもろもろとの関係で考えたい、と思ったのです。

     

    英語が、アメリカン英語(アフリカン・アメリカンらしい英語)だとか、動作がオーバーだとか、説教の際の雰囲気が、Church of Englandの一般的なスタイル、所作、語り方とはかなり違う印象は受けました。それはそれで、その人の個性なのでいいのではないか、と個人的には思うのですが。

     

    まぁ、英国国教会というよりは、アングリカン・コミュニオン(日本聖公会が属する英国国教会系の教会の世界連合体)には、オックスフォード運動の影響を受け、高踏派のハイチャーチ系のカトリック的な古いスタイルの礼拝形式を持つ人々もおられますので、そういう人からすれば、総スカンになりそうな説教のスタイルではあるようには、思いました。

     

    異色の結婚式での異色の説教者

    このカリー主教は、ケンブリッジ公ご夫妻(ヘンリー王子とメーガンたん)が、この人にお願い、ということで、頼んだらしい、と聞き及んでいます。

     

    まぁ、異色の結婚式にふさわしい、異色の主教様にお願いしたのだろう、と思いました。

     

    ところで、メーガンたんの結婚は、障害がいっぱいあった。というのは、彼女が女優だったり、過去のいろいろな出来事がいっぱいあったりしたからでなんですね。

     

    ミーちゃんはーちゃんが、彼女を認識したのは、Suitsという海外ドラマ、アメリカの法律事務所で働く若い偽弁護士とそれに協力するパラリーガル(弁護士補助者)と彼らが働く弁護士事務所のどろどろとした人間関係を取り巻くドラマでした。結構、ドラマとしては、見させる面白いドラマだったように思います。ただ、シーズンが進んでいくと、人間関係が複雑なのと、途中で見逃すと人間関係の構図がわからなくなるのと、人間関係自体がドロドロなんで、途中で見るのをやめちゃいました。伏線多すぎw(海外ドラマあるある)。

     

    Suitsのワンシーン

     

    この主教様が、タブレットかiPadを使って説教したとか、ってのは、本当にどうでもいいことで、説教は、リーガルの養子に限るとか、パピルスでないとけないとか、そんな規則はないように思います。ところで、このブログでも紹介したことがございますが、昔々の楔型文字を書いた粘土板も、英語ではタブレットといいます。その意味で、主教たるもの粘土板のタブレットに限る、とか、聖書に書いてあるわけではないようにおもうのですが。コプト正教の司祭も、タブレット使って司式しておられましたし。

     

    タブレット https://eduscapes.com/history/beginnings/3000bce.htm から

    4000年ほど前最新だったタブレット

     

    タブレットをご覧になりながら準備をしておられるコプト正教の司祭様

     

    説教の日本語翻訳

    さてさて、この説教、いつも参加しているアングリカン・コミュニオンのチャペルでの、先日の日曜日に、司祭がこの説教のことを取り上げて、13分くらいで、Youtubeにも挙がっているから、一度聞いてみるといいですよ、と言っておられました。そして、実際に上のリンクで紹介した、説教を聞いてみたところ、内容がむちゃくちゃよかったので、翻訳したいかなぁ、と思っていたら、お友達とミーちゃんはーちゃんが思っている「ふかや ゆうき」さんという方が翻訳されて、アップしてくださっていた。ふかやさん、ありがと〜〜〜〜。「ふかやさん、あんたは、えらい。本当に偉い。
    説教の日本語訳は、こちら https://courrier.jp/news/archives/122309/ から、読める。「ふかや」さんは、信頼できる背景を持っている人なので、安心して読んでいただける。それは、ミーちゃんはーちゃんが保証します。

     

    冒頭で読まれた雅歌

    ところで、マイケル・カリー主教の説教の冒頭で読まれた聖書箇所は、以下の場所でした。

     

    【口語訳聖書】雅歌 

     8:6 わたしをあなたの心に置いて印のようにし、あなたの腕に置いて印のようにしてください。愛は死のように強く、ねたみは墓のように残酷だからです。そのきらめきは火のきらめき、最もはげしい炎です。
     8:7 愛は大水も消すことができない、洪水もおぼれさせることができない。

     

    この瞬間に、このカリー主教ただものではない、と思いました(主教やるくらいだから、当たり前ではあるが…)。結婚式の説教で、雅歌を持ってきた、というのは、なかなかの荒業だなぁ、と思いました。

     

    なぜか、といいますと、普通、結婚式では第1コリントの13章の愛のところから、説教をしたりすることが多いのですが(ミーちゃんはーちゃんがやるとしても、そこのほうが扱いやすいので、そこでやります)、このカリー主教、旧約聖書中の男女の愛をうたった愛の賛歌から説教主題となる聖書箇所を持ってきておられます。

     

    その瞬間に、正直、「やられた」と思ってしまいました。雅歌は、旧約聖書中、最もエロティックな聖書の書だとおもいます。18禁指定だった時期もあるほどの聖書箇所です。そして、ここから説教するのは、なかなか、大変なのです。やろうとしたことはありますが、あきらめました。それをあえてやって見せてしまうところが、まずもって、「このカリー主教に、やられたぁ」と思ってしまったのでした。

     

    なお、この雅歌に関しては、上沼昌雄さんの「夫婦で奏でる霊の歌 雅歌に見る男女の対話」という本がある。参考になるかもしれません。

     

    度肝を抜かれたイザヤ先生のコメント

    そう思って、結婚式ゆえに雅歌を用いたあたり、恋愛はとても大事だ、ということを狙って、「この雅歌というところを持ってきたというのは、本当に狙っておられるなぁ」ということを書いて、フェイスブックに投稿したら、これまた、ありがたい方で、ヘブライ思想研究者である手島イザヤ先生から、ミーちゃんはーちゃんが腰抜かすようなコメントが入ってきました。

     

    そのコメントとは、以下のようなコメントでした。
    確かに肌の色の黒さは美しい。と雅歌の作者も考えてますね。 שְׁחוֹרָה אֲנִי וְנָאוָה, בְּנוֹת יְרוּשָׁלִָם; כְּאָהֳלֵי קֵדָר, כִּירִיעוֹת שְׁלֹמֹה.

    そうなのだ。雅歌では、肌の黒さが、賛美されているのです。それはどこかというと、

     

    【口語訳聖書 雅歌】 

      1:5 エルサレムの娘たちよ、わたしは黒いけれども美しい。ケダルの天幕のように、ソロモンのとばりのように。

    חוֹרָה אֲנִי וְנָאוָה, בְּנוֹת יְרוּשָׁלִָם; כְּאָהֳלֵי קֵדָר, כִּירִיעוֹת שְׁלֹמֹה.

    なのです。他にも何か所か、肌の黒さに関しての記述が、雅歌にあります。探してみてください。少なくとも、三か所あります。

     

    そうなのだ。雅歌には、肌の色の黒い人にまつわる美しさが書かれている書物なのだ。それを、肌の色いアフリカ系アメリカ人のアメリカの主教が結婚式で、これまた、肌の色が少し浅黒いケンブリッジ公夫人(最初は、Suitsで見ていたころは、メーガンたんはヒスパニック系だとばかり思っていた)とどっからどう見てもコーカシアンで、もろイギリス人風のケンブリッジ公との結婚となると、それはそれで、ヒートアップする人たちは、結構おられるんだろうなぁ、と思うのです。

     

    Duchess of Sussex Cambridgeをまつわる大騒動

    イギリス在住のアングリカンの日本人司祭によれば、英国では、結構、この結婚にまつわり、ヘイトスピーチやヘイトスピーチまがいの発言が結構流れているらしいようです。まぁ、そうだろうなぁ、と思いました。英国の伝統を保持すべき存在と考えられる英国王室に、アメリカ人の女優上りがファミリー入りとか、イギリスでもはびこるネオナチの皆さんからしたら、耐え難いのだろうなぁ、と思うのです。

     

    修正補記 もともと Duchess of Cambridge と記載していましたが、正しくは、Duchess of Sussexであるという指摘が、件の日本人氏司祭から指摘がありましたので、修正いたしました。

     

    女優が王室に入った例は、近代ではモナコ王室に入ったグレース。ケリーが有名ですが、それも相当苦労したようです。グレースケリーの周りで起きた出来事を描いた映画がありますが、それ見ても、まぁ、半端ではなかったようです。実際には、おそらくもっとだろうなぁ、と思います。

     

    モナコ女王になったグレース・ケリーを題材にした映画の予告編

     

     

    階層社会が当然の英国社会

    英国は、階層社会ですし、階層ごとにしゃべる英語が違うのが、英国社会です。そして、その英国は今、アングロ・サクソン人の国というよりは、アングロ・サクソン人が支配したアフリカや中東、アジア系の移民のほうが、人口比では大きい国になり始めています。その意味で、支配層であったエジプトのパロが、人口が急増中のユダヤ人に対して恐怖心を抱いたのと同じように、ブリテン島とその周辺初頭の主であると思っていたアングロサクソン人、ケルト人の子孫の皆さん方は、今、移民の皆さんの人口圧力をひしひしと感じながら、その立場が脅かされているという部分はあるでしょう。それが、ナチスと戦ったはずのチャーチル率いる英国で、ネオナチ的な動きにもつながっているように思います。

     

    ブリテン島でのネオナチの皆さんについての報道

     

     

    テロの時に対応に立った警察官(英国の警察は実際、多様な民族からなっている)向かって左側はシークの警察官

    http://www.dailymail.co.uk/news/article-3875052/Armed-police-officers-carrying-guns-London-Tube-trains-counter-terror-measure-following-station-bomb-alert.html から

     

    人種のるつぼ化する英国で愛を説く

    カリー主教は、翌日が、ペンテコステの日であったということもあったのかもしれません(英国では、ペンテコステというと日のイメージが一般の人々にもかなりあります。腐っても、クリステンドムを経験した国です)が、火というメタファーで愛について語りました。また、火やエネルギーというものを介して、そして、人々が身近に使っているソーシャルメディアや自動車などの例をとりながら、愛を語って言っておられるように思います。そして、神を愛することと同様に、隣人愛、人類愛も神が我々に与えたもうたミッションであることを、王家や参列者、それだけでなく、テレビやYoutubeで自分の説教を聞くであろう、何千万人の人々に説いて見せたわけです。そこまで、カリー主教はおそらく意識して、説教に取り組んでおられると思います。その意味で、このカリー主教は、やはり「ただものではない」のだろうなぁ、と思いました。

     

    ペンテコステを描いたMark Wagginの作品

    https://www.pinterest.jp/emmaboth/f3-shavuot/ から

     

    被抑圧民出身者が抑圧の象徴的存在に愛を語る

    さてさて、まぁ、この説教の逆説はそれだけではありません。英国王室は、奴隷貿易に直接関与しなかったにせよ、それを認可し、少なくとも黙認することで、最近では、その豊かさはだいぶん怪しくなっていますが、英国の富を蓄積させたわけですし、その恩恵を王室は受けているわけです。少なくとも、英国の名においての植民地支配で、英国は巨万の富を手にし、そして、王室もその恩恵をかなり受けたわけです。

     

    そして、今回説教したカリー主教の祖先は、奴隷貿易で米国に無理矢理にバミューダ諸島経由で連れてこられた奴隷(一応、アフリカでの民族間での戦争捕虜や戦利品と確保された人々が身代金が払えないがゆえに奴隷であるとされた人々を、英国人との正当な交易と建前上はなっているで)の家系のご出身のようらしい、と確認されているようです。

     

    ある面でいうと、足蹴にされ、踏みつぶされた人々を祖先や、親類縁者にたくさんお持ちであろうカリー主教が結婚式で、並み居る人々に説教するということは、カリー主教からしてみれば、自分の祖先を奴隷にしてしまったという、憎むべき存在に近いはずの、自分たちの父祖や祖先の親類縁者を踏みつぶした側、そして、自分たちから利益をはぎ取っていった側の英国の王室の人々や、英国人、ヨーロッパ人を祖先に持つ人々に向けて、愛を解く、という実に諧謔に満ちた構造になっているように思うのです。実に皮肉な構造になっているのです。憎しみを説くのではなく、自分たちの置かれた待遇や、自分たちの過去に関する怒りを説くのではなく、結婚式であることもあるのでしょうが、憎しみの炎の代わりに愛の炎を説き、怒りの炎に代わって、愛の炎、そして、ナザレのイエスが説いた愛の支配を説く、という実によくできた、というよりは、諧謔に満ちた構造になっているように思います。

     

    暴力による支配と主の祈りと愛による支配

    カリー主教から愛を語られた支配をしている側の人や支配を下側を先祖に持つ人々にとっては、かなり愉快でない思いをしたでしょうし、かなりつらかったろうなぁ、と思います。


    そして、支配された側の人、奴隷にされた人たちは、本当に、主の祈りの言葉を祈ったと思います。

     

    御国が来ますように(Your Kingdom come)

    御思いがなされますように(Your will be done)

    と。

    英国が来ますようにでもなく(United Kingdom come)

    英国王の思いがなりますように( British King's will be done.)

    ではなく。

     

    英語でKingdom、日本語で王国と訳されているもともとの聖書のことばは、ギリシア語では、バシレイア(バシレイヤ)です。それは、支配という意味を非常に強く含む言葉です。それを考えると、主の祈りは、我々に神の(愛の)支配が及びますように、という意味にもとれるわけです。

     

    奴隷の人々を支配した支配の原理は、鞭と銃とリンチと暴力による支配でした。愛の支配ではなく。神の愛の支配を一方で説きながら、奴隷とされた人々に向けられた支配の原理は、暴力の原理でした。カリー主教の祖先の方々は、愛の律法(ギリシア語の律法には、原理という意味もあります。実際にそのように翻訳している聖書もあります)ではなく、暴力の律法で支配されたのです。それが、王、女王、首相をはじめとする権力者という、ともすれば暴力を伴って人々を支配する支配者層の人々に向かって、愛の支配の原理を、信仰者として、そして、アングリカンの主教として説いたのが、今回の一番のポイントだったと思います。それも、支配してきた側が、愛の支配を説くのではなく、支配されてきた側が、愛の支配を説いた、というのが、今回の説教にまつわる諧謔的な構図だったなぁ、と今思い返しながらも考えています。

     

    アフリカ系アメリカ人に対する暴力による支配(特に南部諸州)についての音楽を紹介してこの記事を終わりたいと思います。

     

    Billie Holidayによる奇妙な果実(音質がいいバージョン)

     

    Billiie HolidayによるStrange Fruit 画質、音質は悪いけど、動画

     

     

    アメリカ南部でのリンチについての『狂った果実』というジャズ音楽

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

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    コメント:大変、よろしいか、と思います。おすすめ

    コメント
    私が本件について書きたかったことを、何倍も深く詳細に記してくださり、ありがとうございます。
    • 水谷潔
    • 2018.05.23 Wednesday 17:34
    水谷先生

    わざわざのコメント、ありがとうございました。
    Facebook上での議論を元に、少し膨らまして、黙想したものを書きましただけですので。
    まさに、
    主に感謝、
    主に栄光
    Thanks be to God,
    Glory to the Father, and to the Son, and to the Holy Spirit.
    でございます。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2018.05.23 Wednesday 23:38
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