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2017.11.05 Sunday

『福音と世界』2017年11月号を読んでみた (5)

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    今回も、『福音と世界』2017年11月号からのご紹介である。同号における手島勲矢論文「トランプ時代のアメリカ・ユダヤ人の分断・苦悩」という論文からご紹介してみたい。今回は昨年の大統領選挙戦で明らかになったアメリカにおけるユダヤ社会の実情についての考察の論文である。

     

    アメリカにおけるユダヤ人の分断を顕在化させた大統領選挙

    アメリカにおけるユダヤ人の存在というのは、旅行で行くくらいではあまり感じないかもしれないが、生活を始めてみると、案外あちこちでそこはかとなく感じられることは確かである。それなりに、非ユダヤ人たちもある程度気を使って市民生活が送られていることは確かであるが、アフリカンアメリカン(肌の色の濃いアメリカ人の皆さん)の場合やアジア系などの言語が普通のアメリカ英語でない人は、誰にでもわかりやすい記号になりうるが、はた目から見て、ユダヤ系と一目でわかるウルトラ保守派の皆さんを除くと、ユダヤ系ということをあまり知らないまま過ごせることが多いので、目に見えた差別があることを感じないことが多いかもしれない。

     

    しかし、大統領選で、トランプが、アメリカファーストといい募り、移民は出ていけ(下の画像でのネイティブアメリカンのご主張のように、ご自身も移民の背景をお持ちのはずだから、率先してアメリカから出ていく必要がある気がするのだが)という表現が、またか、という印象をユダヤ系市民に想起させた可能性は高い。

     

    http://www.donald-trump.site/donald-trump-inmigrants-go-back-home-meme/

     

     

    しかし一つだけ気になることは、トランプ大統領の誕生とともに一層顕在化してきたアメリカ・ユダヤ人の中の分断・苦悩のことである。(2017年11月 『福音と世界』 p.24)

     

    アメリカでは、だれに投票するのか、ということが大統領選挙の前年くらいから、カジュアルな場でも話題になる。実際、テレビでは、CMが流れるし、相手候補を問題視するCM(ネガティブ・キャンペインの方法の一つ)なんかも流される。一人しか大統領候補がいないので、大統領の選挙戦は8月くらいから11月にかけてはお祭り騒ぎの様相を呈し、ニュース番組はもちろん、ソープオペラを除けば、主婦向けの番組なんかでもこの話題が取り上げられ、候補者が主婦向けの番組などにも頻繁に顔を見せることになる。

     

    2016年は、かなり例外的な大統領選挙の年で、共和党、民主党の代表候補を選ぶ、予備選挙と呼ばれる段階で出てきた大統領候補がそれぞれどこかに難を抱えていたのである。例えば、有力候補のなかでは、ヒラリーたんが女性で初の大統領候補という意味でチャレンジングであったし、バーニー・サンダースがユダヤ人で初の代表候補であったし、マルコ・ルビオがヒスパニック系で初であったり、ドナルド・トランプには性差別的な発言と暴言が付きまとうという状態であった。その中で、絶対にこれだ、というような超有力候補が、存在しないまま、個人的にはあれよあれよという間に、トランプが大統領候補になってしまったという感じがある。以下のシンプソンズの動画はその辺のアメリカ市民としての悩みを、マージ・シンプソン(あの番組の中の登場人物として、かなりまともな人物として描かれている人物)に仮託して次のように描いている。

     

    The Simpsonsの2016年の大統領選挙での主要候補者を揶揄するシーン

     

     

    そしてこの論考で取り上げられるバーニーサンダースという存在は、毎度、共和・民主の両既成2大政党以外からの上院議員として、環境保護政策、弱者保護政策を掲げる一風変わった候補であった。そして、上院で既成政党にチャレンジする姿は実に印象的な人物と認識してた。その意味で2010年ごろから、個人的にはちょっと気になる人物であった。そして、2016年には、日既存政党ではなく、民主党の大統領候補として挙がってきたのでちょっとびっくりした。

     

    ユダヤ人とアメリカという国家との関係

    先にも触れたが、いまだにある特殊な名前を持つアメリカ市民に対する迫害というか差別があることは確かだし、特に世界最大のユダヤ人コミュニティが存在しているNYでは、分かりやすいユダヤ名を持つ人々に対する差別や暴力行為、器物損壊、時に殺害事件まで起きることがある。ただ、人種的な差別や暴力はHate Crimeということで、かなりの重罪扱いになることがある。差別的な発言をするほうは、憲法修正第1条(この論文でも、後に出てくるが)を盾に取るのだが、基本的にそれが暴力行為で、裁判ではかなり不利になるらしい。

     

    この既成政党のシナリオを否定した、異常な予備選挙によって、潜在的なユダヤ人社会の中にある分断が、より先鋭化したといっていい。その分断の原因であるユダヤアイデンティティの二重性にについて、サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』の割注でさらっと触れているが、アメリカと自分を同一視するユダヤ人を理解するうえで、バーニーの事例はとても興味深い。(同誌 p.24)

    ところで、アメリカの中で連邦政府(とその代表者であるアメリカ合衆国大統領)をめぐるユダヤ人の間の対立が触れられているが、それは、アメリカの国家に対するユダヤ人の態度ということであるらしい。

     

    福音と世界の本文中に脚注がついていたので見ると、ハンチントンの『文明の衝突』の中での割注の内容とは、ディアスポラのユダヤ人のなかには、「自分が住んでいる国の文化と自分を同一視するユダヤ人」(ちょうど赤尾論文で触れられている「(公的空間では)善きドイツ人であろうとし、(私的空間でのみ)善きユダヤ人であろうとしたようなドイツの改革派系ユダヤ人のような対応をとる人々)と、どちらかというと、イスラエル国の文化と自分のアイデンティティを同一視しようとする傾向の強いユダヤ人とに二極に分化しているというハンティントンの指摘ということのようだ。

     

     アメリカでは、国土が広いために、最小単位のコミュニティの論理が最優先される。人間がコミュニティを形成しているところに、外部の政府(市の政府にせよ、州政府にせよ、連邦政府にせよ)が介入することをものすごく嫌う側面がある。特に、警察関係でこの問題が起きるようだ。市の警察がしている仕事に、FBIなどが介入する案件(ギャングがまつわるような殺人事件など)では、FBI関係者が入ってくると、すぐにFedsと言ったり、環境関係の案件にEPAと呼ばれる環境関係の連邦政府の役所が入ってきても、Fedsといって嫌がる傾向が非常に強い。

     

    アメリカの行政体制とコミュニティの関係

    最小単位のコミュニティの論理が最優先され、法的には、個人に一番近いコミュニティの論理が最優先される。その結果、宗教コミュニティ(原理主義的なキリスト教系団体で孤立的なコミュニティであったブランチダビディアンに、ATFというアルコールとたばこ(薬物)と銃などの火器を取り締まるような連邦法執行組織もFBIも及び腰な対応しかしなかった。その意味で、アメリカにはエスニシティ(民族性)に基づく様々でかなり独立性の強いコミュニティが存在するとはいえるように思う。例えば、リトル・イタリィーやチャイナタウンとか、リトルトウキョーとかが、アメリカの刑事ものの映画で、特殊な描かれ方をするのは、そのあたりの背景があるのである。

     

    そして、ニューヨークには、ウルトラ保守派のユダヤ系の人々からなるコミュニティもあり、赤尾論文の紹介でも述べたようにウルトラ保守派は、思想的には、ユダヤ教のトーラーなどのテキストに固執するために、ユダヤ的なものにこだわりが強い結果、現在の世俗国家に対して否定的な態度をとることがある。現居住国であるアメリカのコンテキストよりも、自分たちのアイデンティティを優先する人々もいるようである。

     

     

    以下の動画の例などは、母国のイスラエルの徴兵政策に反対するNYのウルトラ保守派の皆さんの運動を取り上げた動画である。こういう実に分かりにくいことも起きるのである。

     

     

    イスラエルの徴兵制度の法案に反対するニューヨークのウルトラ保守派のユダヤ人の皆さん

     

    トランプの政策とイスラエルのつながりとユダヤ人

    大統領選挙で、何がユダヤ人の間で問題になったかというと、結局、トランプが大統領選に勝利したときに、何が最悪の事態として、彼らユダヤ人の上に起きることを覚悟するか、ということであるらしい。そのあたりの事情を手島氏は次のように書く。

    簡単にいえば、トランプ大統領令がこだわる強い移民制限やボーダー管理の厳格化は、イスラエルが自国の安全保障のゆえに必要とする高い壁や占領地管理とさほど変わらないと、アメリカ・ユダヤ人が、イスラエルのネタニヤフとトランプの重なりを意識するほどに、彼らはトランプのアメリカを受け入れるのか、それとも自分たちをイスラエルから区別するのか、もはや傍観者的な立場で自分のアイデンティティがシオニズムと安易に結びつくことを認めることができない。(pp.25−26)

    これまでの政権は、基本的に不法移民対策として、ある程度寛容な政策をとってきた部分がある。人権的配慮を重視することを伝統的に良しとする民主党政権では、もともと国家が移民によってできてきたという背景があることや、人道的な政策を民主党が伝統的によしとしてきた背景があることから、ある程度不法移民にも寛容な態度がとられてきた傾向はある。しかし、本来、共和党政権であれば、不法移民対策を多少は厳格化するものの、それをトランプ大統領のように極端な態度はとらず、選挙戦でのメキシコとの間にあり一匹たり通さないような壁を作るという空想的で、実効性の薄いような政策を、明確な政策目標として掲げるまでには至らなかった。建前上では、共和党として不法移民は許さないというものの、共和党政権とその背後で共和党を支援する人々が、必要悪としての不法移民という存在と付き合ってきたからではないか、とは思う。特に中西部では、確かに不法移民によって職が奪われるとか、薬物の流入と不法移民の組織と関係があるとか、様々な不具合はあっても、それに片目をつぶるくらいのことはしていたように思う。そして、不法移民を強制的に送り返すだのとこれまでの共和党政権はあまり声高には言わなかったが、それを政策の柱の一つにトランプ大統領がかかげられたのは、ある面、案税制の低い職場でも働いてくれる安価な労働力としての不法移民を使う産業とのつながりがなかったからではないか、とも思うのである。

     

    ここで、イスラエルとガザ地区を隔てる壁の話題が出ているが、前回の記事『福音と世界』2017年11月号を読んでみた (4) でご紹介した山森論文が指摘するように、あれは、あくまで具体的なテロ被害とそして、その報復による被害と、これらの不幸の連鎖により生まれる死者を減らすための壁であって、トランプ大統領が執務室に入った初日からやろうとした壁の話は、身体的な被害、殺傷を目指しているわけではない人々を対象としたもので、経済的不法移民あるいは経済的難民を単に自国内に入る可能性を排除したいという姿勢を見せるというものであったように思う。その実効性は別として。

     

    実際、メキシコ人は多くの場合、テロリストであるとはいいがたい。確かにロサンゼルスなどでは、ギャングになる人々もいないわけではないが、基本的に単純労働者や、季節労働者だったりする傾向のほうが強いように思う。もし、移民がギャング化するとか言うならば、ほかにもアメリカ国内には、様々な共通性に基づくギャング団は存在するので、移民はギャングの温床になるという一般化は問題が多いことは確かである。

     

    しかし、トランプ大統領は、メキシコ国境との間に巨大な壁を作るといった。そして、それは、ちょうどイスラエルとガザ地区との間の巨大な壁をユダヤ人に思い起こさせたかもしれないと、いうのがユダヤの人々の思いではなかったか、と手島論文では指摘されていたが、個人的には、移民は帰れ、のほうにヨーロッパから命からがら移民、あるいは難民として逃げてきたアメリカにいるユダヤ人のある部分の人々は思ったということが大きいのではないか、と思うのだ。

     

    ドイツやロシアに帰れ、といまさら言われても、彼らには変える地域も帰る家もないのに、どうしろというのだ、と思った可能性のほうがあるのではないか、と思うのだ。仮にイスラエルに帰れ、と言われても、そこでの生活の基盤も、仕事も、人間関係もない中で、何をしたらよいのかという当惑をトランプ政権の強硬な移民政策は与えたということのほうが重要なのではないだろうか。そのように考えると、自分たちが新しい大統領としてトランプ政権が始まったこのアメリカという国において、どのように行動するのか、ということ、どのような声をアメリカ市民権を持つものとして、上げていくということが迫られたのではないか、と本論文を読みながら考えてしまった。

     

    次回この論文の続きについて触れていきたい。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

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