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2017.08.09 Wednesday

藤本満著 『歴史』を読んでみた(1)

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    今日は最近出た、藤本満さんの著書『歴史』という本をご紹介してみたい。

     

     

    プロテスタント発展の背景史を含めた歴史書

    この本は非常に良い本である。これまでのキリスト教関係の歴史に関する本は、どちらかと言うと、キリスト教とキリスト教界の内部についての歴史記述に主な重点がありすぎ、なぜ、キリスト教会の内部構造が歴史的過程の中で、社会環境の変化にともなって、どのように変遷を遂げていったのか、について記述が少ない本が多い。それはそれで仕方がないのだろうと思う。キリスト教界の中の記述だけで、キリスト教としての内容が多いからでもあり、そこに注力したくなるのが人情だからでもあるように思う。しかしながら、キリスト教界内の記述の詳細さをあえて絞り込みながらも、社会の状態にも一定の配慮したある程度詳細な記述がなされているという特徴があるように思った。

     

    社会の背景を含め、変化を遂げていった社会の動きの経緯についても一定の配慮を行いつつ、教会内の動きと社会全体の動きと両者の関連についても、かなり丁寧に記述した書籍である。ただ、宗教改革を記念して出版された書籍であり、主に大陸及び英国のプロテスタントのキリスト教の歴史を追い、大陸諸国との交流の中で、独自に発展していった、米国を中心とした北アメリカ大陸でのキリスト教の歴史、さらに、我が国におけるプロテスタント派のキリスト教の歴史の概略までも含め、ある程度丹念に記述した書籍であるといえるだろう。その意味で、キリスト教の歴史ではなく、宗教改革以降の多様なプロテスタント派の歴史、あるいは、様々なキリスト教諸派の概略に関するプロテスタント全体に関する自画像のラフスケッチと表現するほうが良い本だと思う。


    特にドイツの宗教改革の記述にあっては、次のような当時のドイツの社会状況についての以下のような記述がある。

     

     領邦国家ドイツでは、それぞれのの領邦の町々に印刷所が存在していました。これは当時のイギリスの印刷所がロンドンに集中していた状況と明らかに異なる結果を生み出します。しかも強行側がどれほど防戦しても、その主たる言語がラテン語であったのに対して、プロテスタントがその土地の言語(ドイツ語、フランス語、英語など)を用いて反論を発行したので、読者層の広がり、そして浸透力の度合いは比較になりませんでした。いわば情報革命です。

    (中略)

    そこで、出版物には木版画が挿入されたりもします。こうして大衆の目が一気に出版物に移っていきました。それが神学上の諸問題を含んでいたとしても、流行に乗って、彼らも文字を倣うことに必死でした。こうして高踏文化の社会が文字文化の社会に移っていきました。長い間、聖王を一つにしてきたラテン語は、次第に学者の世界に限定され、数世紀前から台頭してきた民族主義が、それぞれの日常言語を用いて自己表現するような文化を生み出していきます。(『歴史」 pp.30−31)

     

    ブリテン島の宗教改革に関しては、社会の変化の記述は少しドイツの変化と比べて薄いかなぁ、と思うが、それであっても以下のような記述が見られるなど、一定の記述はなされている。

     

    ヘンリ8世は、ローマの主教的支配からイングランドの教会を切り離して、宗教的自治権を確立するために、1529年から36年まで矢継ぎ早に様々な制作・法律を作っていきました。一連の会議は「宗教改革会議」と呼ばれ、聖職者約50名、貴族約40名からなる貴族院、そして74州選出の議員と、236名の都市自治体選出からなる下院によって構成されていました。(p.96)

     

    人的交流が盛んな時代であるがゆえに起きた

    宗教改革という側面
    ところで、ローマ帝国時代から、人の地域を超えた流動が散発的に起きている。有名なのは、ゲルマン民族の大移動とかアジア系の騎馬民族のフン族の流入であり、それはヨーロッパにものすごく影響を与えたような大移動もあった。このような人の大移動も古代から見られたのであるが、特に宗教改革前後の時期の特徴は、ヨーロッパが造船技術の変化にともなって起きた大航海時代以降、海運技術や陸運技術の変化により、移動の可能性が急速に向上したことのような気がする。ある意味、移動の質がこの時期を境として変わっているように思う。

     

    さらに、イベリア半島のムスリムの人々との対決を含め、政治的な安定が失われたり、あるいは、政治的主役の交代などに見られる構造の変化を含め、宗教改革の少し前あたりから、人の流動化がヨーロッパではおきていたように思う。さらに、宗教改革の背景として、このような人びとの交流や移動が、ブリテン島を含めた西ヨーロッパのみならず、東ヨーロッパでも起きていたことなどの記述は、もう少し記載されていても良かったかなぁと思う。このような幾つかの国や地域とその間の交流の歴史が、この本にはチラチラと出てくる。その意味で、このような行き来を地図の上で確認しながら、読まれるのがよろしかろうと思う。

     

    この本の読者が注意すべきこと

    現在の各国の政治体制や各国の運用システムも、実は国ごとにかなり異なり、一様ではなく、実に多様性があり、時代によって制度も代わっているので、現在我々が直面している日本国の現状を想定しながら本書を読むと、本書に書かれた内容を正確に理解できない場合も出てくるであろう。その意味で、本書に出てくるある時代のある地域の状況について、一定程度別資料で確認しておくと本書の内容をより楽しんで読むことができるだろう、と思った。

     

    特に現行の日本の制度と、ルター先生やカルヴァン先輩がご活躍だった頃の中世ドイツと現在のドイツはかなり性質が違うし、労働者の働き方や、仕事の仕方と言った、勤労システム一つ取ったところで、今の日本の諸制度からは、創造ができないほど、大きな違いがある。社会と宗教、社会と教会の関わりなども日本とは比べ物にならないし、創造するのが困難なほど、一体であったのである。あるいは、この本で扱われている16世紀のイングランドと、近世イングランド、近代イングランドは、同一の領域に存在した国家でありながら、伝統という点では一貫した流れはあるものの、その内部構造は大きく異る。また、我々の目からすれば、ブリテン島は英国として表現されるが、内部は、ウェールズと、スコットランドと、イングランドに別れ、隣のアイルランドは、南北に別れ、北岳が、イングランドなどとともに、連合王国を形成するとは言うものの同化すると、スコットランドのように、「俺っちたち、独立しちゃうもんねぇ」と好きあらば独立しようという動きが耐えないのも事実であるし、言語もキリスト教の主要な教派の信者さんのその領域内でのシェアも、この4つの国が一つのブリテン島と周辺諸島のあたりに存在しながら、なおかつ一体にはならないという、歴史を培ってきた国々が、連合王国というくくりでは、とりあえず英国以外を視点にする場合には、一つに見えるという状況なのだ。スコットランド人やウェールズ人の一部には、いまだに、英国人(English)と呼ばれることを拒否する人々がいるほどである。


    イングランドの国歌(皆さんご存知のあの曲)

     

    ウェールズの国歌(多分、ウェールズ語)


    スコットランドの国歌

     

    北アイルランドの固有の音声


    その意味で、現在我々が思っている国家制度を一旦忘れて、当時の国家制度や社会の状態について調べたりしながら、そして、その時代の人びとの生き方や考え方とその違いについては、本書をきっかけに多様な参考資料にあたって、味わいを学びながら、この本をお読みになられたほうがいいかもしれないかもしれないなぁ、と思った。宗教改革というと、多くの人は、冒頭指摘したように、キリスト教の枠内だけで考えがちであるが、そうは一筋縄には行かない複雑な運動体だと思うし、この本は非常に限られた紙幅でありながらも、本書はその一端に触れさせてくれる本でもある。

     

    本当は、著者の藤本満さんは、教会の外の部分についても、紙幅さえあれば(他の本に比べれば、それでも多くの紙幅をもらったと謝辞でおかきであるが)、もっとおかきになりたかったであろうなぁ、とは思った。とはいえ、世界史の教科書よりは遥かに突っ込んで、宗教改革の次代の社会の実相と宗教改革との関係にできるだけ迫ろうとした一般向けの本でもあるし、これまでのキリスト教書よりも遥かに教会の外にはみ出して、当時の社会と協会の関係を記述しようというご努力を試みておられるという意味で、非常に優れた本であると思う。


    次回へと続く。


     

    評価:
    価格: ¥ 2,592
    ショップ: 楽天ブックス
    コメント:要領よく、運動体としての宗教改革とその時代の背景、そしてその後の時代の動きまで(日本のプロテスタントキリスト教史まで)含めた入門的良書

    コメント
    いま、この本をテキストにしたeラーニングが進行中です。今週はイングランド。ちょうど17世紀の講座を作っていて(といっても私は動画を編集してたりするくらいなんですが)またラテン語に戻っていくところなので、なんだかなぁ、、と思いつつ読ませて頂きました。
    原稿の時点から、ちょろちょろ読ませて頂いていたのですが、いつもこの倍以上書いておられましたよ。削るのがホントに大変だったみたいです。
    • 鹿&#129420;
    • 2017.08.10 Thursday 10:16
    イングランドは、次回紹介するあたりの女性の役割とか、その辺が圧巻ですね。

    >いつもこの倍以上書いておられましたよ。削るのがホントに大変だったみたいです。

    でしょうねぇ。それは想像に難くないです。本当に、大変だっただろうと、本当に思いながら、感謝を持って読みました。親分さんによろしくお伝えくだされたく。
    • ミーちゃんはーちゃん AKA かわむかい
    • 2017.08.11 Friday 08:17
    >多分、ウェールズ語

    多分でなく、字幕はウエールズ語。
    右上側(CY/EN)はWalesのウエールズ語Cymruの上二文字。
    • ひかる
    • 2017.09.04 Monday 10:46
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