キリスト教教育とキリスト教の宣教に関する本をたらたらと読んでみた(1)
この本は、ヨベルの社長の安田さんから、
この本の著者は、日本基督教団との関係が深い方で、
「物語の神学」のテキストとしての聖書の重要性
へぇ、と思ったのは、この本の冒頭で、物語の神学が取り上げられていたことです。なかなか、面白い視点だなぁ、と思ったのでした。
「物語の神学」は、本書ではそれを「宗教の文化的言語的理解」
と表現し、特にそのキリスト教学校教育への「適合性( Relevance)」を論じている。筆者は、「物語の神学」 の我が国への紹介は、 その意義深さに比して説明の仕方は情緒的に過ぎ、 その論理構造の提示は甘いと感じていた。 神学なのであるから勘所の理屈がしっかりと示されるべきであり、 その点で最も明快であるリンドベックの所論が理解されるべきなの である。しかもそれは信仰者であればだれにも理解できる。 リンドベック以外を種本に用いるから曖昧になる。そして、 この神学が注目させるのはなんといってもキリスト教経典としての 「聖書」であり、 それを意味深く読めるようまた読みたくなるように誘ってくれるか ら価値ある神学なのである(筆者は左近淑先生の「 聖書の文学構造的読み方」 もこれと本質的に通じるものと理解している)。(西谷幸介著『 教育的伝道 日本のキリスト教学校の使命』p.6)
リンドベックさんの所論は後に概説している部分を引用しながら考
理知的なアプローチの限界もあるような・・・
いわゆる福音派的聖書理解では、
とはいえ、ミーちゃんはーちゃんがパスカルに傾倒しているからかどうか、最初の哲学の先生がパスカルの研究者の湯川先生だったからかどうかはわかりませんが、神について思いを巡らすことが神学であるとするならば、理論だけでどうのこうのとするということということは、少し考えた方がいいかもしれません。
ただ、これまでの「物語の神学」が情緒的すぎ、理論であるならば、その勘所の理屈をきちんと提示すべき、という西谷さんの批判に対しては、何らかの応答はあった方がよいとは思いますが。
多分、これに応答するための認識論によるフレームワークを示しているのが、N.T.ライトの『新約聖書と神の民』の上巻の前半部分だとは思います。
学問論と大学について…日本の大学は大学なのか?
もともと欧米の大学は、神学を行うための組織が、時代が近代に向かうなかで、神学から派生した様々な学問体系が次々に分離し、それぞれ学部となっていった背景があります。しかし、日本は、明治の頃に大学制度を輸入するとき、その段階でのヨーロッパ大陸、特にドイツの大学制度を神学部抜きで輸入したために、かなり偏ったものになっていることは、知る人はしっているけれども、殆ど知られていないのも、また事実です。そのあたりのことについて、西谷さんは次のように書きます。
「学問論」を持ち出すのは、キリスト教学校において、
キリスト教の信仰と神学の存在理由を、 学問のあり方を問うなかで、弁証するためのものである。 学問論とは「学問の学問」のこと(学問なるものを学問すること) だが、明治維新以来の学問も教育も実利に仕えるものだ( オリジナルは傍点 以下同様) とする考えによってひずめられてきた我が国の学問と教育の状況を 根底から問い直すよすがである。 特にこの問題は日本の大学のーその歴史さえ欠如しているからこそ のー最弱点である。(同書 pp.7−8)
ここで重要なのは、明治維新以来の学問も教育も実利志向、
小手先の英会話能力よりは、回りくどい表現でもいいから、
日本の大学の概念の変遷
日本の大学は、戦前はフランスへの憧れと、対抗意識から、
アメリカ合衆国の名門大学の神学部の軽量化というか、
キリスト教と人間論
教育機関にしても、教会にしても、人間を扱う組織というか、団体という社会的存在ではあるはずですので、この人間論というのは極めて大事なはずのですが、プロテスタント教会では、割とそれが薄い、という印象(あくまで個人の感想ですw)があります。以下で、西谷さんがアンスロポロジー(Anthropology)を持ち出しておられますが、古代社会においては、キリスト教(そのご先祖さまのユダヤ教)はそれに真っ先に取り組んできたはずの存在であったはずだとは思うのですが、どうも、それが、今では影がすっかり薄いのが気になります。
現代は人間論、アンスロポロジーが盛んな時代で、
参照すべき多くの人間学がありますが、このブーバーの「 人格的出会い」の思想において浮き彫りにされた人間とは何か、 人間はいかにあるべきかという議論は、 現代の様々な思想領域に深甚な影響を与えてまいりました。(同書 pp.48-49)
ここで、マーティン・ブーマーというユダヤ系の比較的最近の思想家が取り上げられているのですが、教育的な背景や思想史的な背景を考えるためとはいえ、この神があってはじめて人間が人間になる、という思想というか人間観は、確かに旧約的な背景で説明しやすいという側面もあるものの、もともとユダヤ的な伝統と深く繋がっている正教会やカトリック教会などの伝統教派では教会の伝統のなかに塗り込められ、信徒の文化や生活スタイルに近いところまでになっているように思います。
マルチン・ブーバー(マーティン・ブーバー)
この辺、デカルトの影響をかなり強く受けている近代プロテスタントの限界を感じます。
近代思想が典型的に現れている近代経済学が一般に想定するほど、本来、人間は合理で割りきれる訳でもなく、近年、実験経済学が明らかにしてしまったように、人間は必ずしも合理的な意思決定ばかりしてもいないし、そんなに理詰めで判断してもいないように思います。
人間理解が割と平板かも…
その辺りのことを踏まえるならば、人間理解が伝統教派に比べ割りと平板なのは、福音派も、いわゆるリベラル派、あるいは米国キリスト教系のメインライン教会でも、かなり共通しているかなぁ、と思います。
具体例をあげていうならば、教会の側で、「教会に来るひとは何らかの困り事を抱えている」という思い込みがきつすぎるように思います。確かに、かなりの確率で、お困り事を抱えている方が来られることも多いというのは分からなくもないのですが、ミーちゃんはーちゃんみたいに、道場破りではないですが、神学的な違いが細部のどこに現れるのか、信徒さんのご様子を覗いて見たかったり、教会を単に味わってみたいだけでご訪問しようとしていたものにすると、新しい教会に行くたび「この人何を求めて来たんだろう?」とか言う目で見られたり、根掘り葉掘りいろいろ聞かれるのはどうもねぇ、と思ってしまいます。
もうちょっと、どっしり構えてお迎えになるカトリックや、来るなら来てみていいですよ風の正教会などのようにどっしり構えておられ、プロテスタント教会でよく牧師さんがすがり付くように追っかけてくるようなことが伝統教派では割と少ないということがあります。伝統教派では、司祭さんがわりとあっさり対応してくださる、と言うのは、どうもこのあたりの人間理解による影響もありそうかなぁ、と思います。
次回へと続く。
評価:
西谷 幸介 ヨベル ¥ 3,888 (2018-03-01) コメント:個人的には面白かったけど、ほとんど一般のキリスト者には関係のない本かもしれないです。 |
評価:
スタンリー・ハワーワス ヨベル ¥ 8,097 (2014-04) コメント:めちゃくちゃいいけど、普通の人には、関係のない本かもしれません。 |
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